傘亭


杉浦日向子の『ソバ屋で憩う』で知った。

早稲田通りに面する店の外観は、見過ごし行き過ぎてしまうほど。小さく「傘亭」と書いた札が店先に出ていたような気がする。

店内はカウンター数席と、テーブル席が少し。が、テーブル席は椅子が上げられてしまっていることも。こっちには座るな、という意思表示だろうか。店内にはそば粉はどこから、醤油はどこ産、鰹節はなになに…と食材の素性を示した張り紙が。蕎麦の味をだいなしにするということで、茶の代わりに柚子を浮かした蕎麦湯が出る。同じ理由でビールは置いていない。客は料理や酒、蕎麦に集中している。シーンと静まり返っている。

ちょっと敷居の高い店か、と一瞬感じる。

杉浦日向子の本にも「初回からここでくつろげる人はいないだろう」とある。

初めて訪れて、蕎麦にたっぷり汁を含ませていたら「あんまり汁、つけない方がいいですよ」と、店主に注意された。

緊張。

が、「まあ、好き好きなんですけどね」とのフォローが。店主男性の、その、ちょっとした感じになごむ。

それをきっかけに、ぽつりぽつりとやりとりしていくと、蕎麦打ち論(蕎麦の旨さというものは、蕎麦打ちの技術より、そば粉の質がほとんどを左右するのだそうだ)から、食べ歩きの話、海外旅行の思い出、果てはどういう経緯か宗教論にいたり、杯は重なり、なんだか楽しくなってきて、シメの蕎麦の旨いこと。せいろそばの爽やかな喉ごしと、田舎そばの蕎麦粉の滋味がガツンとくる旨さのコントラストよ。なによりそばつゆが美味しい。ふわりとくる出汁の香りときりりとした醤油の感覚。ねぎ、わさびはなく、薬味はおろした辛味大根。出すものぜんぶ、いい素材を丁寧に扱って作っているんだろうなあ。食べ終えて、腹のあたりでじんわりくる旨さを感じる。

こだわりの店ではある。

けれど、意味のない通ぶった気どりは微塵もない。

ある意味、けっこうなごめる。

店主オリジナル「金華豚のボローニャ」といった、蕎麦屋らしくないつまみがあったりするのもイイ。

玉子焼き、鰊煮、生海苔ののった崩れ豆腐、鴨焼き、てんぷらなども。

酒は神亀、義侠など。

あと、季節限定だったかもしれないけど、きんと冷えた野菜がたくさん添えてある「冷やしてんぷらそば」は別次元の面白さ。

また行かなくちゃ。

早稲田通り、高田馬場駅から歩いてシチズンプラザのもう少し先。
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by aroyaroy | 2009-06-21 13:04 | 高田馬場


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